スーツのベント|構造と機能性を理解することで後ろ姿は完成する
スーツにおけるベントとは、ジャケット後裾に入る切れ込み部分を指します。
一見すると装飾的なディテールのように思われがちですが、実際には可動域の確保とシルエット保持という、非常に実用的かつ構造的な役割を担っています。
人の体は、立つ・歩く・座る・ひねるといった動作の中で、腰回りとヒップに大きな負荷と変化が生じます。
ベントはその動きに対して生地の「逃げ場」をつくることで、着用時のストレスを軽減し、同時にジャケットの形を崩さないために存在しています。
目的はただ一つ。
「生地の開放域を確保し、シルエットを乱さないこと」
この考え方を軸にすると、ベントの種類ごとの意味や違いがとても分かりやすくなります。

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センターベント(Center Vent)
センターベントは、背中心に一本の開きを設けた構造で、アメリカントラディショナルなスーツに多く見られる仕様です。
現代では最も一般的で、幅広い体型・シーンに対応できる汎用性の高さが魅力です。
腰部分の可動域を適度に確保しつつ、動作時に裾が大きく割れにくいため、歩行や軽い動きが多い日常使いでも安定した見え方を保ちます。
また、ジャケットのラインが比較的直線的に出るため、テーパードの効いた細身のパンツとも相性が良く、全体を軽快にまとめることができます。
派手さはありませんが、「どこに行っても間違いのない後ろ姿」を作れるのがセンターベントの強みです。
【適性】
標準体型、日常使い〜ビジネスシーン、軽快さと実用性を重視する方。

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サイドベンツ(Side Vents)
サイドベンツは左右に二本の開きを持つ、英国式スーツに由来する伝統的な仕様です。
構造上、体のひねりや立ち座りといった動作に最も追従しやすく、可動域という点では三種類の中で最も優れています。
特に特徴的なのは、ヒップラインを包み込むように生地が縦方向に落ちる点です。
動いても裾が跳ね上がりにくく、後ろ姿のラインが崩れにくいため、「立っても歩いても美しい」印象を与えます。
丈がやや長めのジャケットや、構築的な肩周りと組み合わせることで、よりクラシックで品のある佇まいになります。
営業職や接客業など、人前で動く機会が多い方に選ばれる理由もここにあります。
【適性】
ヒップが張っている体型、営業・接客業、クラシック志向の方。

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ノーベント(No Vent)
ノーベントは、ベントを一切設けない最もミニマルな仕様です。
可動域という点では不利ですが、その分、腰回りから裾にかけて直線的で純度の高いシルエットを保つことができます。
フォーマルシーンにおいては、「体のラインを強調しすぎない」「動きを見せない」という美意識が重視されるため、タキシードや礼装では今も選ばれる仕様です。
立ち姿そのものの美しさを際立たせたい場面では、ノーベントならではの静かな存在感が生きてきます。
【適性】
タキシード、礼装、格式や立ち姿を重視するシーン。
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ベントの選び方と、テーラーとしての考え方
一般的な基準としては、
・可動域と実用性を重視するならサイドベンツ
・汎用性と軽快さを求めるならセンターベント
・格式とシルエットの純度を重視するならノーベント
という考え方になります。
最近ではクラシック回帰の流れからサイドベンツを選ばれる方が増えていますが、センターベントも依然として安定した支持があります。
ベントは「流行で選ぶもの」というよりも、体型・ライフスタイル・着用シーン、そして何よりご本人の好みが大きく反映される部分です。
tailorkongでは、単に仕様を決めるのではなく、その方の動き方や立ち姿まで含めて最適なベントをご提案しています。
スーツの後ろ姿は、自分ではなかなか見えないからこそ、仕立ての差が一番出る部分。
だからこそ、細部まで意味のある一着を、一緒に作っていけたら嬉しいです。
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